創作をするにあたり、モチベーションを保つことを目的として。
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「ひっ」
床に転がった兄の頭部を見て、腰が抜けた父親が小さく悲鳴をあげた。これは演奏が終わった後の歓声か? それにしては、あまりにもお粗末じゃないか。
すでに胴体も床に倒れ、ただのモノになってしまった肉体のまわりを、どくどくと溢れ出る生温かい鮮血の海が取り囲んでいる。
「俺がこうして目覚めることが出来たのも、貴様らのお蔭だ。だからせめて、苦しまないように殺してやろう」
ラウィスの瞳には、より一層冷酷な光が宿っていた。
床に転がった兄の頭部を見て、腰が抜けた父親が小さく悲鳴をあげた。これは演奏が終わった後の歓声か? それにしては、あまりにもお粗末じゃないか。
すでに胴体も床に倒れ、ただのモノになってしまった肉体のまわりを、どくどくと溢れ出る生温かい鮮血の海が取り囲んでいる。
「俺がこうして目覚めることが出来たのも、貴様らのお蔭だ。だからせめて、苦しまないように殺してやろう」
ラウィスの瞳には、より一層冷酷な光が宿っていた。
「………」
無言で立ち尽くすラウィスの耳に、ふとこちらに走ってくる慌ただしい足音が聞こえた。
ラウィスは扉を振り向き、その足音が近づいてくるのをじっと待った。三人だ。
「父さん!?」
ついに勢いよく扉が開かれ、目の前の光景に言葉を失った三人が、その場に立ち尽くした。
「きゃああああああっ!!」
一瞬の間の後、女の甲高い叫び声が部屋に響き渡る。
ああ、あいつがここに来るときにすれ違ったメイドだ。ラウィスはぼんやりとそう思った。そしてあとの二人は、ラウィスの兄達。残りの二番目と三番目だ。
「こ、これは、何が……! 兄さん!? 父さんは……」
目の前に見知った人間の頭が転がっていれば、取り乱すのも無理はない。そんなことを冷静に考えつつ、ラウィスはまるで何事もなかったかのような口調で、
「どうしたんだ?」
「ラウィス!? 何でここに……!」
初めてラウィスの存在に気づいた二番目の兄が、返り血を浴びたその姿を見て後ずさった。
「俺が殺した。だからここにいる」
「なっ、何を馬鹿な!」
「だが、そんなことはどうでもいい。貴様らも、すぐに同じところに送ってやる」
そう言うと、すっと左手を三人に向かって突き出す。
「!?」
「お別れだ」
それは死の宣告。どん、と手の中から放たれた黒い塊は、三人に近づくにつれ大きく膨張し、父親と同じように丸ごと飲み込んでしまった。塊が弾けた衝撃は、今度は周囲の壁だけでなく、天井までも吹き飛ばす。
それからガラガラと崩れ落ちる天井を、ラウィスは何も言わず見つめた。
あの三人の最期の表情は見なかった。見たとしても、それはひどく無意味だっただろう。
いとも簡単に、あっさりと。何かを消すということなど、造作もないこと。自分にはそれを一瞬でやり遂げてしまう、力がある。そう、自分には力があるのだ。
けれど。
「……その力の意味なんて、あるのか?」
自分で自分に問いかける。何て愚かなことだ。――わかっている、そんなこと。
もしも自分がこうすることのためだけに生まれ、目覚めさせられたのなら、もうこれで自分の役割は、存在理由は尽きてしまったのか?
今になって、ひどく空虚に感じられるのは、何故だろう。
あいつは、自分という存在に、何を求めた? ――何を。
もう泣き声も、叫び声も聞こえない。自分の中は、しんと静まり返っている。問いかけたとて、答えが返ってくるはずもない。
「……くっ」
ラウィスは俯いて、たまらなく可笑しくなった。何故だかなんて、そんなことを知ってどうしようというのか? そんなこと、どうだっていいではないか。
「くっくっく……はははははっ……はは……」
一瞬の沈黙の後、ラウィスはばっと顔を上げた。
(意味だと? 何故そんなものが必要なんだ? 一体何のために?)
自分はここで、こうしている。それだけで充分ではないのか。この俺を創りだしたのはあいつだ。自分はどこへ行く必要もない。
そうだろう?
生きていればいいんだ。あいつは自分を創りだしたことを後悔するだろうが、だがそれが一体何だというんだ?
(そんなことは俺の知ったことではない)
そうだ。後悔するなら、後悔して生きればいい。すべては自らの罪だと、その責任を負うがいい。償いを探すがいい。
再び口元に笑みを戻したラウィスは、父親を消し飛ばした時に開けた穴から飛び降りた。青々と茂った柔らかな芝生の上に着地し空を仰ぎ見ると、太陽に思わず目を細める。屋敷の外に出たのも、これが初めてだ。
ラウィスは臆することなく歩みを進めると、全体を見渡せるようになった屋敷を振り返る。名門貴族の一族らしく豪華な外観の屋敷は、さながら小さな城のようだった。
「………」
ふっと左手を上げる。その手の中からは、今度はマグマのように燃え盛る炎の玉が現れた。それを屋敷に向けて放つ。炎の球は一直線に飛んでいき、ドォンと音を立てて直撃すると、たちまち炎が燃え上がって屋敷を炎で包み込んでしまった。
そろそろ日も傾きはじめ、やがて夜が来るだろう。この土地に、昨日と同じ夜明けはもう二度と訪れない。
――燃えさかる炎を、ラウィスは無表情で見つめていた。熱風が頬をじりじりと焦がすような感覚を覚えながら、ぱらぱらと火の粉が雨のように降り注ぐ情景をその瞳にとらえ、炎が美しいものであることを知った。
ラウィスはしばらくそれを見つめてから、くるりと背を向けた。それから早くもなく、遅くもない、一定の歩調で屋敷から遠ざかっていく。その動作には、ためらいなどはない。元より、自分にはもう失うものなど存在しないのだ。
――過去にすべてを無くしてしまった、哀れな運命の導者。
いずれ気がつくことになるだろう、生きていることの意味を。
いずれ知らねばならない時が来るだろう、自分が何故生まれてきたのかということを。
どれだけ自らの背負った運命が重いものであるかを。
そして、ラウィス・スリンクスという二つの人格が、何故必要であるのかを。
ふたり、今はまだ何も知らないままでいい。
しかし、いずれ……。
無言で立ち尽くすラウィスの耳に、ふとこちらに走ってくる慌ただしい足音が聞こえた。
ラウィスは扉を振り向き、その足音が近づいてくるのをじっと待った。三人だ。
「父さん!?」
ついに勢いよく扉が開かれ、目の前の光景に言葉を失った三人が、その場に立ち尽くした。
「きゃああああああっ!!」
一瞬の間の後、女の甲高い叫び声が部屋に響き渡る。
ああ、あいつがここに来るときにすれ違ったメイドだ。ラウィスはぼんやりとそう思った。そしてあとの二人は、ラウィスの兄達。残りの二番目と三番目だ。
「こ、これは、何が……! 兄さん!? 父さんは……」
目の前に見知った人間の頭が転がっていれば、取り乱すのも無理はない。そんなことを冷静に考えつつ、ラウィスはまるで何事もなかったかのような口調で、
「どうしたんだ?」
「ラウィス!? 何でここに……!」
初めてラウィスの存在に気づいた二番目の兄が、返り血を浴びたその姿を見て後ずさった。
「俺が殺した。だからここにいる」
「なっ、何を馬鹿な!」
「だが、そんなことはどうでもいい。貴様らも、すぐに同じところに送ってやる」
そう言うと、すっと左手を三人に向かって突き出す。
「!?」
「お別れだ」
それは死の宣告。どん、と手の中から放たれた黒い塊は、三人に近づくにつれ大きく膨張し、父親と同じように丸ごと飲み込んでしまった。塊が弾けた衝撃は、今度は周囲の壁だけでなく、天井までも吹き飛ばす。
それからガラガラと崩れ落ちる天井を、ラウィスは何も言わず見つめた。
あの三人の最期の表情は見なかった。見たとしても、それはひどく無意味だっただろう。
いとも簡単に、あっさりと。何かを消すということなど、造作もないこと。自分にはそれを一瞬でやり遂げてしまう、力がある。そう、自分には力があるのだ。
けれど。
「……その力の意味なんて、あるのか?」
自分で自分に問いかける。何て愚かなことだ。――わかっている、そんなこと。
もしも自分がこうすることのためだけに生まれ、目覚めさせられたのなら、もうこれで自分の役割は、存在理由は尽きてしまったのか?
今になって、ひどく空虚に感じられるのは、何故だろう。
あいつは、自分という存在に、何を求めた? ――何を。
もう泣き声も、叫び声も聞こえない。自分の中は、しんと静まり返っている。問いかけたとて、答えが返ってくるはずもない。
「……くっ」
ラウィスは俯いて、たまらなく可笑しくなった。何故だかなんて、そんなことを知ってどうしようというのか? そんなこと、どうだっていいではないか。
「くっくっく……はははははっ……はは……」
一瞬の沈黙の後、ラウィスはばっと顔を上げた。
(意味だと? 何故そんなものが必要なんだ? 一体何のために?)
自分はここで、こうしている。それだけで充分ではないのか。この俺を創りだしたのはあいつだ。自分はどこへ行く必要もない。
そうだろう?
生きていればいいんだ。あいつは自分を創りだしたことを後悔するだろうが、だがそれが一体何だというんだ?
(そんなことは俺の知ったことではない)
そうだ。後悔するなら、後悔して生きればいい。すべては自らの罪だと、その責任を負うがいい。償いを探すがいい。
再び口元に笑みを戻したラウィスは、父親を消し飛ばした時に開けた穴から飛び降りた。青々と茂った柔らかな芝生の上に着地し空を仰ぎ見ると、太陽に思わず目を細める。屋敷の外に出たのも、これが初めてだ。
ラウィスは臆することなく歩みを進めると、全体を見渡せるようになった屋敷を振り返る。名門貴族の一族らしく豪華な外観の屋敷は、さながら小さな城のようだった。
「………」
ふっと左手を上げる。その手の中からは、今度はマグマのように燃え盛る炎の玉が現れた。それを屋敷に向けて放つ。炎の球は一直線に飛んでいき、ドォンと音を立てて直撃すると、たちまち炎が燃え上がって屋敷を炎で包み込んでしまった。
そろそろ日も傾きはじめ、やがて夜が来るだろう。この土地に、昨日と同じ夜明けはもう二度と訪れない。
――燃えさかる炎を、ラウィスは無表情で見つめていた。熱風が頬をじりじりと焦がすような感覚を覚えながら、ぱらぱらと火の粉が雨のように降り注ぐ情景をその瞳にとらえ、炎が美しいものであることを知った。
ラウィスはしばらくそれを見つめてから、くるりと背を向けた。それから早くもなく、遅くもない、一定の歩調で屋敷から遠ざかっていく。その動作には、ためらいなどはない。元より、自分にはもう失うものなど存在しないのだ。
――過去にすべてを無くしてしまった、哀れな運命の導者。
いずれ気がつくことになるだろう、生きていることの意味を。
いずれ知らねばならない時が来るだろう、自分が何故生まれてきたのかということを。
どれだけ自らの背負った運命が重いものであるかを。
そして、ラウィス・スリンクスという二つの人格が、何故必要であるのかを。
ふたり、今はまだ何も知らないままでいい。
しかし、いずれ……。
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