創作をするにあたり、モチベーションを保つことを目的として。
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(……どうして、どうしてどうして! 何で、嘘だって言ってよ)
ガタガタと震える身体を制するように、両腕を抑える。頬を、つっと伝っていく生温かい液体の感触が、ひどく他人事のように、遠く感じた。
今までいつか認めて貰えると、いつか受け入れて貰えると信じて。兄にどんなに冷たくあしらわれても、父が言葉すら交わしてくれなくても、それでもいつか、努力さえしていればいつか自分を見てくれる日が来ると、認めてくれる日が来ると、そう信じていたのに。
どんなに悲しくても、どんなに辛くても。そしてどんな憤りを感じても。――すべての負の感情は、全部自分の中に押し込めて、頑張ってきたのに。
笑顔でいようと、これ以上嫌われたりしないようにと、必死で頑張ってきたのに。
それなのに。
ガタガタと震える身体を制するように、両腕を抑える。頬を、つっと伝っていく生温かい液体の感触が、ひどく他人事のように、遠く感じた。
今までいつか認めて貰えると、いつか受け入れて貰えると信じて。兄にどんなに冷たくあしらわれても、父が言葉すら交わしてくれなくても、それでもいつか、努力さえしていればいつか自分を見てくれる日が来ると、認めてくれる日が来ると、そう信じていたのに。
どんなに悲しくても、どんなに辛くても。そしてどんな憤りを感じても。――すべての負の感情は、全部自分の中に押し込めて、頑張ってきたのに。
笑顔でいようと、これ以上嫌われたりしないようにと、必死で頑張ってきたのに。
それなのに。
一体自分が何をしたというのだろう。力なんて欲しくなかった。魔法なんて使えなければよかった。欲しかったのは、そんなものじゃない。
そんなものじゃない。
そんなものじゃなかったのに!
ぱん、と、身体の奥で何かが弾けた。
――『所詮、邪魔になったものは消されていくんだ』
ふいに、頭の中で誰かが喋った。何処かで聞いたことのある声。
しかしそれは、深く憎しみに満ちた、低く悲しげな声。
誰の声だっただろう。とても近く、近く……。
『ようやく目覚めることが出来た。さあ、お前の身体を、俺に渡せ』
「誰……?」
正体不明の声に恐る恐る問いかけると、声はくっと笑った。
『心配するな。お前を殺させはしない……この俺が困るからな』
何を言っているのか、ラウィスには理解できなかった。――何者なのかすら、わからない。何故、頭の中に直接声だけが響くのだろう。
ラウィスはかぶりを振って、「違う、違うよ、僕は殺されたりなんか……」
しない、とまでは、声にならなくて言えなかった。それが悔しくて、悲しくて、ラウィスは唇をぎゅっときつく噛んだ。
『そう思いたければ、勝手にそう思っているがいい。だがしかし、お前は本当は、こうすることを望んでいるんだろう?』
「―――ッ!?」
ずん、とラウィスの身体に大きな圧力がかかった。苦痛に顔を歪め、がくんと床に両膝をつく。苦しい。身体が重い。
息がうまく出来なくて、呻く。汗が、どっと噴き出た。
「……うっ……あっ、や、やめて……!」
恐怖に駆られ、ラウィスは必死に朦朧としていく頭を振った。これから何が起こるのか、自分の身体の中で何が起こっているのか、言い知れぬ不安と困惑が全身を覆った。
――壊れていく。
薄れゆく意識の中で、うっすらと目を開けたラウィスの目前には、変わらず堂々と扉がそびえている。美しい彫刻。――この向こうには、父さんと兄さんがいる。
壊れていく。壊されていく。
心が浸食される。黒い憎しみの塊。じわじわと。
これは、僕だ。
そう、これは、もうひとりの僕。
知っていた。きっと知っていた。目を逸らして、気づかないふりをしていた。
姿を現したもうひとりの“自分”は、他でもない、己自身で創りだしたもの。押し込められたすべての負の感情のエネルギーの墓場。行き場のないそれらの感情をただ引き受け、受け止める者として。
そしてもうひとりの自分を創りだした。――自分自身のために。
そうだ、ただそれだけのために。
『……つまらん遊戯の始まりだ』
無機質な声。
「やめ、て……」
最後の一言を絞り出すと、ついにラウィスは目を閉じ、がくりとうなだれた。
それから一瞬の沈黙の後、ふとラウィスは顔を上げ、ゆらりと扉を見つめた。口元には笑みを浮かべ、瞳には冷たい光を宿らせて。
「……殺される前に、殺せば済むことだろう?」
ラウィスはもう見えなくなったものに問いかけた。返事なんて、返ってこなくても構わない。
自分がここに、こうして存在している。そして成すべきことがある。それで充分だ。
――この瞬間を、どれだけ待ちわびたことか!
ラウィスはより一層の笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。
そして、目の前の扉に手をかけ、力を入れる。
乾いた音を立て、扉が左右に開かれた――。
そんなものじゃない。
そんなものじゃなかったのに!
ぱん、と、身体の奥で何かが弾けた。
――『所詮、邪魔になったものは消されていくんだ』
ふいに、頭の中で誰かが喋った。何処かで聞いたことのある声。
しかしそれは、深く憎しみに満ちた、低く悲しげな声。
誰の声だっただろう。とても近く、近く……。
『ようやく目覚めることが出来た。さあ、お前の身体を、俺に渡せ』
「誰……?」
正体不明の声に恐る恐る問いかけると、声はくっと笑った。
『心配するな。お前を殺させはしない……この俺が困るからな』
何を言っているのか、ラウィスには理解できなかった。――何者なのかすら、わからない。何故、頭の中に直接声だけが響くのだろう。
ラウィスはかぶりを振って、「違う、違うよ、僕は殺されたりなんか……」
しない、とまでは、声にならなくて言えなかった。それが悔しくて、悲しくて、ラウィスは唇をぎゅっときつく噛んだ。
『そう思いたければ、勝手にそう思っているがいい。だがしかし、お前は本当は、こうすることを望んでいるんだろう?』
「―――ッ!?」
ずん、とラウィスの身体に大きな圧力がかかった。苦痛に顔を歪め、がくんと床に両膝をつく。苦しい。身体が重い。
息がうまく出来なくて、呻く。汗が、どっと噴き出た。
「……うっ……あっ、や、やめて……!」
恐怖に駆られ、ラウィスは必死に朦朧としていく頭を振った。これから何が起こるのか、自分の身体の中で何が起こっているのか、言い知れぬ不安と困惑が全身を覆った。
――壊れていく。
薄れゆく意識の中で、うっすらと目を開けたラウィスの目前には、変わらず堂々と扉がそびえている。美しい彫刻。――この向こうには、父さんと兄さんがいる。
壊れていく。壊されていく。
心が浸食される。黒い憎しみの塊。じわじわと。
これは、僕だ。
そう、これは、もうひとりの僕。
知っていた。きっと知っていた。目を逸らして、気づかないふりをしていた。
姿を現したもうひとりの“自分”は、他でもない、己自身で創りだしたもの。押し込められたすべての負の感情のエネルギーの墓場。行き場のないそれらの感情をただ引き受け、受け止める者として。
そしてもうひとりの自分を創りだした。――自分自身のために。
そうだ、ただそれだけのために。
『……つまらん遊戯の始まりだ』
無機質な声。
「やめ、て……」
最後の一言を絞り出すと、ついにラウィスは目を閉じ、がくりとうなだれた。
それから一瞬の沈黙の後、ふとラウィスは顔を上げ、ゆらりと扉を見つめた。口元には笑みを浮かべ、瞳には冷たい光を宿らせて。
「……殺される前に、殺せば済むことだろう?」
ラウィスはもう見えなくなったものに問いかけた。返事なんて、返ってこなくても構わない。
自分がここに、こうして存在している。そして成すべきことがある。それで充分だ。
――この瞬間を、どれだけ待ちわびたことか!
ラウィスはより一層の笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。
そして、目の前の扉に手をかけ、力を入れる。
乾いた音を立て、扉が左右に開かれた――。
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