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知らぬ間に時は廻り
気づかぬうちに季節は去り
靄のかかったように見通せぬ明日
けれど未来もいずれ廻り
廻った時も去りゆく季節も もう一度
それがどんな因果のもとにあろうとも
例え望まぬものだったとしても
人間の欲は限りない。今こうして事実をつきつけられればそれを認めざるを得ない。人を導くのは人なのだと、そのような考えが甘かったのだろうか。
所詮、人は人でしかあり得ないのだと。
「あの者どもを封じてしまうしかあるまい」
「しかし、ここでそのような処置をしたとて、いずれまた、これと同じことが起こってしまうだろう」
「その時は、どうされるおつもりか」
「次は本当に、取り返しのつかぬことになるやもしれんぞ」
「……今はまだ、何も見えぬ」
――………。
それぞれが何かを考えるように、静かな沈黙が続いた。
集まった神々は、現在ではなく未来を恐れていた。神でさえも見えない、未来を。
――それから、長い長い時が経ち。
ガラスが砕けるような音がしたかと思うと、そのすぐ後に、爆発音が響く。どうと神殿を駆け巡る風圧が、柱に次々とヒビを入れていった。
「!!」
神官が駆け付けた時にはもう遅く、砕け散った水晶の破片が、祭壇のある部屋の床一面に散らばっているだけだった。
「なんということだ、ルインザルトの水晶が……!」
言いながら祭壇の上を確認すると、砕けた水晶が置かれていたと思われる台座の隣に、もうひとつ、丸い水晶が鎮座していた。微かに淡く、空色の輝きをまとっている。
「レフィカの水晶は無事か……神々に報告せねば」
踵を返した神官は、足早に廊下を歩いて行った。時は一刻を争う。
「なんということだ……!」
円卓に集った五人の神々が、それぞれ唸った。――何故今まで気づかなかったのか。これは重大な失態だ。
忘れ去られた過去になど、すべきではなかった。
「もう一つの封印を、解くしかあるまい」
「レフィカの封を? しかし、そんなことをしたらどうなるか……」
「いや、もはやそれしか我々も手を出せぬ。例え我々が我々の力を持って解決したとしても、いずれまた同じことが繰り返されるであろう」
「だが、レフィカの封印を解いたとしても、かの者に負の感情が生まれれば、それこそ同じことの繰り返しだ」
「……しかし、我々はもう、人々にやり直す機会を与えた」
一際神々しく、堂々とした風格を身にまとったひとりの神のこの言葉に、他の神々は押し黙った。
「あの二人を封じた時、人々の世界を消滅させることもできた。が、それをしないでくれと、もう一度世界を構築するチャンスを与えてくれとの願いを聞き入れたから、今があるのだ。ならば見てみようではないか、再構築された世界が、どのような成長を遂げたのかを。――それが上手くいかなければ、我々が手を下し、今度こそ消滅させてもよかろう」
すべてを無に帰し、そして別の世界として再生させる。
神の権限として。
「……承知いたしました。すべてあなたの意見に従いましょう。あなたは我々の頂点に立つお方。他のものも、依存ありますまい」
ひとりが頭を下げると、残りの三人もそれに続いた。
未来は誰も知ってはならない
例えそれが神であろうとも
未来を定めるのは命あるものすべて
未来は決して ひとつではない
かつて人間の住まう地界と、魔族の住まう魔界を導く者として神々によって創られたふたり。
地界に降り立った者はレフィカ、魔界に降り立った者はルインザルトといった。
ふたりは対となって、ふたつの世界を結ぶ者として、人々を良い方向へ導いていく者として、その役目を果たさなくてはならなかった。
レフィカはルインザルトであり、ルインザルトはレフィカであった。ふたりの清い心は繋がり、強い絆となり、ふたつの世界の均衡と平和を保つためにその力を注ぐようにと神々からの命を受けていた。
しかし、神々の願いは砕かれた。ふたりは次第に欲をもつようになった。
ふたつの世界の支配。
世界のすべてを手にするために、思いのままに創りかえるために、ふたりは行動を起こした。自らを神のように振る舞い、人々を意のままに操ってそれぞれの世界を混乱させ、地界の者は魔界に攻め入り、魔界の者もまた地界に攻め入った。
神々は乱れきったふたつの世界を立て直すべく、ふたりの魂を封印した。同時に世界を消滅させようとしたが、もう一度だけやり直す機会を与えてほしいと、人々の善良な心を信じてほしいと懇願する者があったため、思いとどまった。
そしてふたりの導者を失った世界は、再生の道を辿っていった。――大いなるふたつの魂を、過去のものとして忘れてゆきながら。
だが、神々は気づかなかった。ルインザルトの封印に、わずかな綻びがあることに。それは封じられる直前、ルインザルトが最後の力を振り絞って出来たものだった。
ルインザルトは長い長い時をかけて少しずつ力を回復させてゆき、その綻びから封印を破ることに成功した。
ルインザルトを止められるのは、神々の他に、レフィカしかいない。
――ついにレフィカの封印も、解かれる時がきた。
魂だけとなった彼は器となる肉体を選び降臨し、新たな役目を負い、今生に生まれ変わった。
失った力を肉体の成長とともに少しずつ回復させ、その力をもって、ルインザルトと対峙するために。
前世の記憶を持たずとも。今はまだ、自らの生まれてきた意味を知らずとも。
再び生まれてきたのだ、この世界に。
救うか、滅ぼすか、すべての十字架をその背に背負いながら。
――ラウィス・スリンクスは生まれてきた。