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知らぬ間に時は廻り
気づかぬうちに季節は去り
靄のかかったように見通せぬ明日
けれど未来もいずれ廻り
廻った時も去りゆく季節も もう一度
それがどんな因果のもとにあろうとも
例え望まぬものだったとしても
人間の欲は限りない。今こうして事実をつきつけられればそれを認めざるを得ない。人を導くのは人なのだと、そのような考えが甘かったのだろうか。
所詮、人は人でしかあり得ないのだと。
「あの者どもを封じてしまうしかあるまい」
「しかし、ここでそのような処置をしたとて、いずれまた、これと同じことが起こってしまうだろう」
「その時は、どうされるおつもりか」
「次は本当に、取り返しのつかぬことになるやもしれんぞ」
「……今はまだ、何も見えぬ」
――………。
それぞれが何かを考えるように、静かな沈黙が続いた。
集まった神々は、現在ではなく未来を恐れていた。神でさえも見えない、未来を。
ラウィスが意識を取り戻したのは、空が白み始めた夜明け近くだった。見知らぬ街道脇の木の下で、膝を抱えて眠っていた。
身体を起こすと、両手の平をゆっくりと広げ、その上に恐る恐る視線を落とす。
「……ああ……」
夢じゃない。これは現実なんだ。夢じゃないんだ。
手の平が、乾いて褐色になった血にまみれている。服に視線を移すと、同じように褐色に染まっていた。
はっきりと記憶の中に残されたヴィジョン。血と、焼け焦げる匂い。
「僕が……僕が」
床に転がった兄の頭部を見て、腰が抜けた父親が小さく悲鳴をあげた。これは演奏が終わった後の歓声か? それにしては、あまりにもお粗末じゃないか。
すでに胴体も床に倒れ、ただのモノになってしまった肉体のまわりを、どくどくと溢れ出る生温かい鮮血の海が取り囲んでいる。
「俺がこうして目覚めることが出来たのも、貴様らのお蔭だ。だからせめて、苦しまないように殺してやろう」
ラウィスの瞳には、より一層冷酷な光が宿っていた。
「!?」
窓辺に立って話していた二人が驚いて扉を振り返ると、そこには幼い少年がぽつりと立っていた。目を細め、口元には悠然とした笑みを浮かべている。一族共通の明るい緑の髪に、瞳の色だけが他の兄弟と違う。本来なら青いはずの瞳の色は、髪と同じ色。
ただ、その瞳には普段とは違う、ぎらついた輝きがあった。
「ラウィス? お前、一体何の用だ?」
兄が言った。まともに顔を見て会話をしたことがないため、ラウィスの表情の変化に彼は気づかない。
その言葉を無視してラウィスがつかつかと部屋に踏み入ると、背後でバタンと、まるで意思を持っているかのように扉が閉まった。
ガタガタと震える身体を制するように、両腕を抑える。頬を、つっと伝っていく生温かい液体の感触が、ひどく他人事のように、遠く感じた。
今までいつか認めて貰えると、いつか受け入れて貰えると信じて。兄にどんなに冷たくあしらわれても、父が言葉すら交わしてくれなくても、それでもいつか、努力さえしていればいつか自分を見てくれる日が来ると、認めてくれる日が来ると、そう信じていたのに。
どんなに悲しくても、どんなに辛くても。そしてどんな憤りを感じても。――すべての負の感情は、全部自分の中に押し込めて、頑張ってきたのに。
笑顔でいようと、これ以上嫌われたりしないようにと、必死で頑張ってきたのに。
それなのに。