創作をするにあたり、モチベーションを保つことを目的として。
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レニウムのハッピーバースデイ!
「フンフンフーン♪」
暖かく、そして爽やかに晴れた今日のような日は、絶好の掃除日和だ。町外れに住む青年発明家レニウムは、左右にポケットのついたいつもの白衣を着て、長い黒髪をひとつに束ね白い三角布を頭に被り、でたらめな鼻歌を歌いながら上機嫌でホウキを動かしていた。今はリビングの掃除を終え、玄関の掃除に取りかかり始めたところである。それなりに広い家は掃除も大変だが、レニウムはいつもこまめに綺麗にしている。こういったことは嫌いではない、というかむしろ好きだ。
そんなレニウムを、空気の入れ換えのために開け放してあるリビングのドアの向こうから、じぃっと見つめるイングリットの姿がある。
「………」
イングリットは何か言いたげな顔で、もじもじ。その姿は何だかストーカーにも見えるほどだ。
「フフフンフン♪」
しかしレニウムはイングリットのガン見にも気づかないほど掃き掃除に熱中している。
「………」
もじもじもじ。
(うう……)
イングリットはもじもじしながら、頭の中で妄想していた。
レニウム「ああ、そうじはたいへんだな。でもがんばらなくちゃ、きれいなおうちのためだもの……」
イングリット「おれがてつだってやるぞレニウム!」
レニウム「えっ、ほんとうかいイングリット!」
イングリット「ほんとうだ! うれしいだろう!」
レニウム「ありがとう! すごくすごくうれしいよ! イングリットさいこう!」
「………」
もじもじ、どきどき。でも今の妄想でちょっと頬が赤い。妄想の中でほめられて、どうやら勝手に嬉しくなったようだ。が、現実はどうやって切り出したらいいものかわからない。しかし声をかけなければ何も始まらないのは、イングリットだってわかっている。
(……よし、言うぞ……!)
ようやく決意を固めたらしい。ぎこちなさすぎる動作で一歩を踏みだし、ぱくっと口を開く。決意を固めすぎて血走った目が怖いのは、ご愛嬌だ。
「レニウ」
しかし最後のム、を言い終わる前に、玄関の扉がコンコンとノックされた。
「おや?」
レニウムはホウキを動かす手を止め、ドアノブに手をかける。
「あ……」
出鼻を挫かれたイングリットは、踏み出した一歩をどうしていいかわからなくなり、そのまま固まってしまった。
「はーい」
ガチャ、と扉を開けると、開ききらないうちに玄関に滑り込んできた人影。それはそのままぼすっと、レニウムにタックルするようにして抱きついた。
「逢いたかったわレニィ!」
「!?」
聞き覚えのある高い声に、思わずイングリットは、げっとなる。――知っているぞ、このわざとらしい甘い声と台詞は……
「やあ、こんにちはアンナ」
アンナを抱きとめたままでレニウムが言った。アンナはぱっと顔を上げ、満面の笑みときらきらした瞳で、
「10日ぶりよ! レニィに逢えなくて寂しかったんだから」
「またお父様の仕事を手伝っていたのかい?」
「そうよ、パパの馬車に乗って王都まで行ってたの」
アンナは貿易商で町一番の大金持ちの一人娘。猫のようなアーモンド型の目に、くるくるとカールした薄茶色の髪をツインテールにして、赤いメイド服のようなデザインのドレスを着ている外見からはお嬢様らしさはあまり感じられないが、立ち居振る舞いからはどことなく気品を感じさせる少女だ。その勝ち気で真っ直ぐな性格から、イングリットにもずけずけと物を言ってよく口喧嘩をしているが、レニウムはふたりが仲良しなのだと解釈している。
「レニィの発明品も持っていったらすごく好評で……って、あら?」
アンナがレニウムから身体を離し、はたと視線を投げた先には立ち尽くすイングリットの姿。目が合うと、イングリットはぷいっと顔をそむけてしまった。
「なにしてんのよアンタ、そんなとこで」
「おや、イングリット?」
二人同時に注目され、イングリットはなんだかとてもバツが悪い。結局、手伝うとも言いそびれてしまったし。
「なんでもない」
そっぽを向いたままでいるイングリットに、アンナは呆れた口調で言った。
「なぁにが『なんでもない』よ。ヒマしてるなら、ちょっとはレニィを手伝ったらどうなの」
「!」
むっとして、イングリットはアンナを睨みつけた。今、手伝うって言おうとしてたのに。それをアンナが邪魔したのに。――とは思っても、それを口に出せるはずもなく。PR
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