創作をするにあたり、モチベーションを保つことを目的として。
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「俺がなにしようが勝手だろ!」
それは非難がましく棘のある声だったが、アンナはあっさりと、
「ふうん、まあ別にいいけど。だって今日はあたしがレニィを手伝うんだから」
「?」
いつもならここで口喧嘩が始まりそうなものなのに、イングリットは少し拍子抜けする。しかしアンナはそんなことなど意に介さずに続けた。
「だからレニィは向こうに座って休んでて。ここの掃除はあたしがやっておくから」
「どうしたんだい、アンナ。そんないきなり……」
「いいから! ほらほら、早く向こうに行ってよおっ」
言いながら、ぐいぐいとレニウムの背中を押してリビングの向かい側にある彼の寝室に押し込もうとする。レニウムは何が何だかわからないという様子で、「え? え?」などとあたふた言っていた。
「心配しないで、あたし掃除だってちゃんとできるわ!」
レニウムを寝室まで連行することに成功したアンナは、なぜか自信満々だ。レニウムはわけがわからない。
「なにも今急いで掃除しなくてもいいんだよ? せっかく遊びに来てくれたんだから、三人でお茶にしようか」
「だめ! 今日はだめなの!」
「だめなの?」
「とにかく、レニィはゆっくりしてて! あたしが呼ぶまで出てきちゃだめなんだらね!」
「……軟禁……?」
バタン、とレニウムの困惑した悲しげな声を遮断するようにして、無情にも扉は閉められた。
「ふう、これでよし」
ため息をひととつついたあと、すぐにアンナはホウキを手にして、まるで何事もなかったかのように掃除を開始する。
「って、おい、勝手になにやってんだよ!」
どうしていいかよくわからず、黙って見ていたイングリットがついに口を開いた。
「あら、まだいたの」
イングリットはその言いぐさにムッとする。
「何しにきたんだよ!」
「何しにって、決まってるじゃない、今日は大切な日なんだから!」
「たいせつ?」
何のことだかわからず、首をかしげる。
「やだ、アンタ知らないの?」
「何がだよ」
なんだか知らない自分が悪いような言い方に、さらにムッとする。しかしどういうことなのかも気になって、おとなしくアンナの説明を待った。そしてアンナは、はあっと大げさなため息をついてみせた後、
「アンタってほんと、バカでしょ? バカでしょ? ねえバカでしょ!?」
「三回も言うなっ!!」
「今日はねえ! ……はっ」
言いかけたところで、突然ばっと背後を振り向く。イングリットもアンナの背後に視線を滑らせると、そこには寝室の扉を少しだけ開けて、そっとふたりの様子を除き見ているレニウムの目玉が、アンナに見つかったということに気づき挙動不審にきょろきょろ動いた。
「だめだったらぁ!」
「いじわるぅ……」
再びアンナの手で扉が閉められると、レニウムが恨めしげな声を発した。恐らく、仲間はずれにされてかなり寂しがっているのだろう。
そして再びレニウムに覗き見されることを懸念したアンナは、イングリットを外に連れ出した。残念ながら仲間はずれはまだ終わらない。
「さっきの続きだけど、今日は、今日はね……」
「もったいぶるなよっ!」
イングリットがイライラを声を荒げると、アンナはコホンとわざとらしい咳払いをして、
「今日は、レニィの誕生日なのッ!!」
「!?」
(たんじょうび!?)
「だから、今日はレニィにゆっくりしてもらう日にするの。邪魔しないでよね」
「……たんじょうびって、なんだ!?」
「はあ?」
思わぬことを言われて、アンナは思わず間の抜けた声を返してしまった。何を言っているのだ、この少年は。本気で聞いているのか? ーーその表情を観察してみるが、どうも本当に誕生日を知らないらしい。
「信じらんない、いくら世間知らずだからって」
はあ、と片手て頭を抱える少女の姿を見ても、どうしてそんなリアクションをとられているのかなどまったくわからないイングリットは、じっとアンナの答えを待っていた。
「誕生日っていうのはね、生まれた日のことよ」
そう言われて、やっとピンときた。
(生まれた日……製造日のことか?)
「だからお祝いするの。わかった?」
「おいわい……」
「わかったら、あたしの邪魔はしないでよね。掃除を終わらせて、料理も作らなきゃいけないんだから忙しいの。レニィをびっくりさせて、喜ばせるんだから」
そう言い終わると、さっさと扉を閉められてしまった。体よく追い出された形だが、イングリットは『たんじょうび』が気になってそれにも気づかない。
「たんじょうび……おいわい……」
(よろこぶ……)
少し無言で何かを考えてから、イングリットは一度大きくうなずいて何かを決意し、そしてたっと駆け出した。家を背にして走る。町の方へ。
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