創作をするにあたり、モチベーションを保つことを目的として。
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一方のレニウムは、自室の中で立ったまま悲しみに暮れていた。
「突然やってきたアンナに突然軟禁されてしまうなんて……私が一体何をしたというんだろう……」
そして右手でそっと涙を拭う仕草までつけてみる。もちろん嘘泣きだ。
「……もしかして、アレかな?」
はたと嘘泣きを止め、今度は口元に手をあてて何かを思い出そうとしている。
「いや、それとも……アッチかな? もしくはコッチ?」
目を閉じて、うーんと考えた末、
「いやいや、この間イングリットに作ってあげた友達ロボットの“クマえもん”が羨ましかったのかな?」
その考えが気に入ったらしく、レニウムはふっと顔をほころばせた。
「きっとそうだ、アンナもあれが欲しかったんだ。イングリットもあんなに喜んでいたし……結局壊しちゃったけど。ふふ、イングリットはちょっと乱暴者さんだから、今度はもっと頑丈に作ってあげなくちゃ」
にこにこしつつ独りぶつくさ呟きながら、レニウムは回想を始める。
――そう、あれは数日前のことだった。
アンナが遊びに来る時以外はいつもひとりでいるイングリットに友達を作ってあげたいと思い立ったレニウムは、食事もとらず一日中研究室にこもって一体のロボットを完成させたのだった。その名も“クマえもん”。愛らしいクマのぬいぐるみに意志を与え、自由に動き回れるように様々なモーターやら歯車やらを内部に取り付け、おまけに腹部に“異次元ポケット”なる高性能の収納ポケットをくっつけた、自称『近年稀にみる大傑作』。
早速、警戒心むき出しのイングリットを丸め込み無理矢理押し切って、客室に放り込んでクマえもんと二人きりにしてみた。ついでに「あとはお若いふたりでごゆっくり」なんていう意味不明な言葉と笑顔を残して。
それから数分後、イングリットの「ぎゃー!!」という悲鳴が聞こえたので、レニウムは慌てて駆けつけたのだ。そして部屋の扉を開けると、イングリットがクマえもんの異次元ポケットに頭から収納されかけていた。
それを見たレニウムの一言は、これである。
「楽しそうだなあ……。もうっ、ずるいぞ! やっぱりわたしも仲間に入れておくれよイングリット!」
その言葉に激怒したイングリットは、その怒りの力でポケットから脱出し、即座にクマえもんを破壊。そしてレニウムに何考えてんだこのイカれ発明家、などの罵声を浴びせかけたが、当の本人はまったく聞き耳を持ってはいなかった。いつものことだが。
――つまり、そういうことがあったわけだ。
回想を終え、レニウムは大きく頷いた。
「うん、アンナにも作ってあげよう。アンナは女の子だからウサギさんがいいかな? ついでにイングリットにもクマえもん二号を……。よし、そうと決めたら早速」
言いながら、いそいそと扉を開けて廊下に出ていくレニウム。そしてあっさり、モップを使って廊下のワックス掛けをしているアンナに発見される。
「レニィ!」
「やあアンナ。ウサえもんが欲しいなら、こんなところに軟禁しないで言ってくれたらいいのに」
「はあっ? ウサえもん?」
にこやかに訳の分からないことを言い出すレニウムに、アンナは思わず返した。しかもすでに、新しいネーミングまで決定している。
「ちょっと待っててね、明日の夜までには作ってあげるから。アンナには特別に、ポケットふたつ着けちゃうよ」
言って、そのままスタスタと研究室に向かおうとする。研究室にはリビングを抜けた先にある。リビングにはレニウムの誕生日パーティーの為のご馳走用にたんまりと食材が積まれている。つまり、それを見られたらレニウムに『美味しい手料理で彼のハートをどっきゅん狙い撃ち☆』作戦がばれてしまうかもしれない。いや、ばれる。絶対にばれるに決まっている。
「だっ、だめーーーー!!!」
ばちこーん、と、良い音がした。一瞬の間に思い詰めたアンナが、モップで後ろから思いきりレニウムの頭を殴ったのだ。そして崩れ落ちるレニウムの身体。青ざめるアンナの顔。
「きゃー! レニィ!」
慌ててモップを放り出して駆け寄り、目を回して気絶しているレニウムの上半身を起こす。
「しっかりして、死んじゃだめ、誰がこんなことを! あたしだけど、ごめんなさいレニィ!」
べちべちべちと高速で頬を叩かれて、レニウムはうっすらと目を開けた。
「う、うーん……」
「良かった、気がついたのね!」
「あれ……今、モップで殴られて……?」
朦朧としたその言葉にぎくっと身をこわばらせるアンナだったが、すぐにしれっとした顔で、
「なんのこと? アンナぜーんぜんっ、わからない!」
そしてとびっきりの笑顔をレニウムに向けて、
「それよりほら、部屋から出てきちゃダメだって言ったじゃない! ね、早く戻って。早く早く!」
後ろめたさから急にべたべたしてきたアンナ立たされて、そのまま自室に連れ戻されるレニウム。
「じゃあ、今度こそ本当に、あたしが呼ぶまで出てきちゃだめだからねっ」
しっかりと念を押して、無事作戦に気づかれることもなくレニウムを再び軟禁することに成功したアンナは、部屋の扉を閉めたあと、ほっと胸をなで下ろした。
「ふう、危ないところだったわ」
実際危ないところだったのはレニウムのほうだが、もちろんアンナ自身にそんな自覚などない。
「さ、はやく家中ピカピカにして、ご馳走作りに取りかからなくちゃ」
よし、と気合いを入れ直して、アンナは再びワックス掛けを再開した。
ぱたぱたを扉の前から遠ざかるアンナの足音を聞きながら、レニウムは考えていた。
「えーと、さっきまでわたしは一体何をしようとしていたんだっけ?」
しかし後頭部がズキズキするせいなのか何なのか、ちっとも思い出せそうにない。
「はあ、全然だめだ、思い出せない。なんだかとてもナイスアイデアだったような気がするんだけどなあ」
発明家にとって、アイデアこそすべてのものの根元であり最も重大なものである。それが思い出せないとあって、レニウムはがっくりと肩を落とした。
「仕方ない。他のことでもしていれば思い出すかもしれないし。……何をしようかな」
本来ならば家の中をうろうろ歩き回って思い出したいものだが、今日はそうもいかないらしい。代わりに何か良いものはないかと辺りを見渡すが、綺麗好きなレニウムの自室はこざっぱりとしていて、目立って面白そうなものはない。一番目立つものといったら、ベッドの枕元にちょこんと座っている、自作のイングリット人形くらいだろうか。しかもなかなか可愛い。
「うーん……」
軽く唸りながら、試しに机の引き出しを開けてみる。一番上はペンやらレターセットやらが入っていて、めぼしいものはない。真ん中の引き出しには、ファイリングされた書類が入っている。これでもちゃんと仕事はしているようだ。そして三番目、一番下の大きな引き出しには、
「あ」
淡いピンク色の毛糸玉が三つと赤い毛糸玉が二つ、転がっていた。
「そうだ、前は編み物にはまっていたんだっけ。イングリットが家に来てからすっかり忘れていたよ」
言いながら、赤い毛糸玉をひとつ取り出してみる。ふわふわとして柔らかい手触りに、自然と微笑んだ。
「久しぶりに、編んでみようかな」PR
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